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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)660号 判決 1985年4月19日

原告

加藤清光

ほか一名

被告

樽谷包装産業株式会社

主文

一  被告は原告加藤清光に対し金六八八万三三一九円、原告加藤光に対し金四三二万六〇〇〇円及びこれらに対する昭和五七年三月一三日より各支払済にいたるまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二〇分し、その八を原告加藤清光の、その五を原告加藤光の、その余を被告の負担とする。

四  本判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

(申立)

第一原告ら

一  被告は原告加藤清光(以下原告清光という。)に対し金一九二三万一〇四九円、原告加藤光(以下原告光という。)に対し金一二九六万六八二五円及びこれらに対する昭和五七年三月一三日より各支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

第二被告

一  被告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(主張)

第一請求原因

一  交通事故の発生

原告清光は、原告光を同乗させ昭和五〇年三月一九日午後二時五〇分頃、兵庫県氷上郡氷上町北野一五七番地附近の道路上を普通貨物乗用自動車(車両番号名古屋四ぬ九八九九号)を運転走行中、被告の使用人である訴外足立伊男が運転する普通貨物自動車(車両番号神戸四四ね二一八二号)に追突され、原告両名とも強度の頸部挫傷を負つた。

二  被告の責任

右事故は、原告車両が進行方向前方の踏切に差しかゝつたので、その手前で安全確認のための一時停止をすべく減速走行していた際に、後方を走行していた被告車両はほとんど減速措置をとらなかつたために発生したものであり、被告車両を運転していた訴外足立の一方的過失によつて発生したものであることが明らかである。そして、被告は、右訴外足立を右事故当時業務上使用していた者であり、右事故は、被告の業務執行中に発生したものである。また、被告は右加害自動車を自己のために運行の用に供していた者であり、右事故はその運行によつて発生したものである。したがつて、被告は右事故により傷害を受けた原告らに対してその傷害による損害を賠償すべき責任を負うものである。

三  原告らの損害

1 治療費

原告清光 四二万九四九九円

原告光 二一万八一二〇円

原告らは右傷害治療のため昭和五〇年三月二六日以降名古屋市港区内の労働福祉事業団中部労災病院(以下労災病院という。)および名古屋市熱田区内のみなと医療生活協同組合協立病院(以下協立病院という。)へ通院し、診察・治療を受けている。右金額は昭和五〇年三月二六日より昭和五五年一月二八日までの間(原告清光は実通院日数一七日原告光は一四三日)に右二医療機関に支払つた診察・治療費の合計額である。

2 通院交通費

原告清光 一一万六八二〇円

原告光 九万四三八〇円

原告らが右医療機関へ通院するために要した交通費の実費合計額である。

3 休業損害

原告清光 一三一八万四七三〇円

原告光 七一五万四三二五円

原告清光は椎茸原木の販売を業とするものであるが、本件事故も原告光(清光の息子)を伴つて取引のために柏原農業協同組合を訪れた帰路において発生したものであり、原告清光は、本件事故による傷害のため、事故当初はもとより最近に至るまで頭頸部に激痛を感じ身体動作に支障を来たしていたばかりでなく、思考力欠如等の精神的障害をも負つていた。このため、事故当日の昭和五〇年三月一九日より昭和五六年二月一三日までの二一五〇日のうち就労日数二四〇日を除いた一九一〇日間は業務に従事することができず、この休業により、少なく見積つても事故当時の年齢である五〇歳の男子の全国平均賃金月額金二〇万七一〇〇円の実休業日数一九一〇日分金一三一八万四七三〇円の得べかりし利益を逸失した。

原告光は父清光とともに椎茸原木の売買業務に従事していたが、本件事故による負傷、これにともなう頭頸部激痛等のため就労不能となり、昭和五〇年三月一九日より昭和五六年二月一三日までの二一五〇日のうち軽作業に従事した一二五日を除いた二〇二五日間は業務に従事することができず、この休業により、少く見積つても事故当時の年齢である二三歳の男子の全国平均賃金月額金一〇万六〇〇〇円の実休業日数二〇二五日分金七一五万四三二五円の得べかりし利益を逸失した。

4 慰謝料

原告清光 五五〇万円

原告光 五五〇万円

以上原告らの受傷の程度、通院期間、休業状況等、肉体的精神的苦痛に対する慰謝料相当額。

5 後遺症障害

(一) 逸失利益

原告清光 一七六万六五九〇円

原告光 一五九万五五七〇円

原告らの本件事故による傷害の症状は、いずれも昭和五六年一〇月五日固定し、自覚症状として頭頸部痛、左上腕痛があり、特に天候不順時や季節のかわりめの疼痛は甚しく、他覚症状として頸部回旋障害等があり、以上により精神的集中力に乏しく、めまい、はきけ、等バレリー症候群を呈し、これらの後遺障害は自賠法施行令後遺障害等級一二級に該当するもので、労働能力を一四パーセント喪失し、この障害は少くとも五年間は持続する。

原告清光は右症状固定時五六歳であるから、昭和五五年度の当該年齢の平均賃金年収二八九万一三〇〇円を、原告光は二九歳であるから当該年齢の平均賃金年収二六一万一四〇〇円を基礎とし、右期間の逸失利益を算出(ホフマン計算により中間利息を控除)すると原告清光は一七六万六五九〇円、原告光は一五九万五五七〇円となる。

(二) 慰謝料

原告清光 二〇〇万円

原告光 二〇〇万円

原告らの右各後遺障害による肉体的精神的苦痛に対する慰謝料相当額

6 弁護士費用

原告清光 一〇〇万円

原告光 一〇〇万円

原告らは本件訴訟代理を弁護士村瀬尚男に委任し着手金及び報酬金を支払う旨約したが、そのうち、本件事故と相当因果関係にある金員。

四  結論

よつて原告らは右各損害金のうち、原告清光は金一九二三万一〇四九円、原告光は一二九六万六八二五円及びこれらに対する本訴状送達の翌日である昭和五七年三月一三日より各支払済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二請求原因に対する答弁

一  請求原因一は認める。

二  同二は認める。

三  同三の1・2は認める。但し、原告清光の通院実日数は一七五日(労災病院一二六日、協立病院四九日)、原告光は一四四日(労災病院一一九日、協立病院二五日)である。

同三の3は不知。

同三の4は不知。

同三の5は争う。原告らの症状は昭和五五年一月二八日に固定し、自賠法施行令後遺障害等級非該当と診断されている。

同三の6は不知。

第三被告の抗弁

本件交通事故に基づく損害賠償債務は、本件事故の日から三年を経過したので時効によつて消滅した。

第四抗弁に対する原告らの答弁及び再抗弁

一  右抗弁は争う。原告らの本件事故による受傷の症状は昭和五六年一〇月五日ようやく固定したものであるから、原告らの損害は同日確定し、これを知つたものであるから消滅時効期間は同日から進行する。

二  原告らは被告に対し、昭和五六年二月一四日書面をもつて本件事故に基づく損害賠償として、原告清光は一九二三万一〇四九円、原告光は一二九六万六八二五円の支払を求めたところ、被告は昭和五六年三月二三日原告らに対し、適正な損害賠償額の範囲(原告清光に対し二七六万八二〇八円、原告光に対し一八一万七七六六円、いずれも後遺症についてはその認定があれば別途とする。)で支払う旨回答し、本件損害賠償債務を承認し消滅時効の援用権を喪失した。

第五再抗弁に対する被告の答弁

右第四の二の事実は認め、主張は争う。

(証拠)

本件記録中、証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一 (本件交通事故の発生)同二(被告の責任)の各事実は当事者間に争いがない。

二  よつて、原告らの損害について検討するに、右争いのない事実並びに成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、第三号証の一ないし六、第四号証の一ないし三、第六号証の一ないし六、乙第四号証、証人伊藤不二夫の証言及び原告清光本人尋問の結果(右証言及び原告の供述中後記措信しない部分を除く。)を総合すると、原告らは本件事故によりいずれも頸椎捻挫又は頸部挫傷の傷害を受け、外傷性頸部症候群の症状をきたし、頭頸部痛、めまい、はきけ等の、原告清光は更に左上腕のしびれ感の各症状があつて、本件事故の日より昭和五五年一月二八日までは治療を要し、日常の生活及び就労に不便、制限を受け、原告清光は当初約三か月間は約三日に一度、その後約三か月間は約六日に一度、その後は約一五日に一度の各割合で、原告光は当初約三か月間は約四日に一度、その後約三か月間は約一〇日に一度、その後は約一五日に一度の各割合でそれぞれ通院治療し、症状は軽減し、昭和五五年一月二八日ころまでには右症状は固定したものと認められ、右証言及び原告の供述中右認定に反する部分はにわかに措信できない。

1  治療費

原告清光 四二万九四九九円

原告光 二一万八一二〇円

右各金員は原告らが右期間中部労災病院及び協立病院に通院治療に支出した金額であることは当事者間に争いがなく、右支出は本件事故と相当因果関係にあると認める。

2  通院交通費 原告清光 一一万六八二〇円

原告光 九万四三八〇円

右各金員は前記通院に要した金額であることは当事者間に争いがなく、本件事故と相当因果関係にあると認める。

3  休業損害

原告清光 二九七万五〇〇〇円

原告光 一四八万七五〇〇円

前記原告清光の供述によれば、原告清光は本件事故当時、その長男である原告光に手つだいをさせて椎茸の栽培及び椎茸原木の販売を業としていたところ、本件事故による負傷により右の就業に支障をきたしたものと認められるが、本件事故当時原告らの右事業により得る収入の額についてはこれを明確に知る証拠はなく、結局原告清光につき昭和五〇年の賃金センサスによる五〇歳男子の全平均賃金の約八割相当の月収金一七万円を、原告光についてはその半額の月収八万五〇〇〇円をそれぞれ得ていたとするのが相当と考えられるところ、原告らの前記症状及び通院状況等に照らし、その逸失利益は、右月収を基準とし、本件事故の日より三か月間は一〇割、その後の三か月間は五割、その後の約四年四か月間は二割五分とするのが相当で、その結果は原告清光が二九七万五〇〇〇円、原告光が一四八万七五〇〇円となる。

4  慰謝料

原告清光 一八〇万円

原告光 一五〇万円

前記原告らの受傷の程度、通院期間及び休業状況等諸般の状況を考慮した慰謝料額。

5  後遺障害による損害

本項冒頭掲記の書証のほか、成立に争いのない乙第二号証、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らの症状は遅くとも昭和五五年一月二八日に固定し、外傷性頭頸部症候群として頭頸部痛、頸部回旋障害の後遺障害を残したものと認められる。成立に争いのない甲第二号証、第五号証の各記載及び証人伊藤不二夫の証言中、右認定に反する部分は右乙第二号証、第四号証に照らし、また原告らが、本件事故後昭和五六年一二月まで就労不可能であつた等原告らの虚偽ないし誇張の申述に基づくものとして措信しない。

(一)  逸失利益

原告清光 六一万二〇〇〇円

原告光 三〇万六〇〇〇円

しかして原告らの前記後遺障害は、右症状固定後より軽快しつつあるが、前記就労にその後三年間は影響がありその逸失利益は一割とするのが相当であり、原告清光は六一万二〇〇〇円、原告光は三〇万六〇〇〇円となる。

(二)  慰謝料

原告清光 六〇万円

原告光 五〇万円

原告らの右各後遺障害の程度、期間(前記就労に影響した三年を経過後今日まで軽度の障害を認める)等諸般の事情を考慮した額

6  弁護士費用

原告清光 三五万円

原告光 二二万円

原告らは本件訴訟代理を弁護士村瀬尚男に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件訴訟の経緯、前記認定額に照らし、本件事故と相当因果関係にあると認めた弁護士費用。

以上合計

原告清光 六八八万三三一九円

原告光 四三二万六〇〇〇円

三  そこで被告の消滅時効の抗弁について考えるに、以上認定事実に照らせば、原告らの本件事故に基づく損害賠償債権の消滅時効は、本件事故の日より進行したものというべきであるから、三年後の昭和五三年三月一九日右期間を経たというべきである。

しかるところ、原告らが被告に対し昭和五六年二月一四日、本件事故に基づく損害賠償の支払を求めたところ、被告は原告らに対し同年三月二三日適正な損害賠償額の範囲で支払う旨回答した事実は当事者間に争いがないから、被告は原告らに対する消滅時効の援用権を喪失したものというべく、結局被告の抗弁は採用できない。

四  よつて、原告らの本訴請求は前記各損害賠償金及びこれに対する本件事故の日の後である本訴状送達の翌日の昭和五七年三月一三日より各支払済にいたるまで金五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条九二条九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野達男)

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